Keyword C 歴史

Keyword C : 歴史

戦時下の農民たち

ito-imgS01農学部に歴史の研究室があることに驚かれるかもしれません。そこで、最近の研究内容を紹介しながら農学部で歴史を学ぶ意義について述べてみたいと思います。 2015年はアジア・太平洋戦争の戦後70年にあたることから、日本の近現代史をめぐる議論が活発に行われています。しかし、「あの戦争」や「戦後」をいかに総括するのかといった大きなテーマがさかんに論じられる一方で、人びとがいかに戦時を生きたかという一見小さなテーマについてはあまり注目されていないように思います。戦時下の日本の農民たちは、国家によって戦争協力を強制されたのか、それとも自発的に国家に協力していったのでしょうか。実は、この質問は「強制的あるいは自発的に農民は国家に協力した」ということが暗黙の前提になっています。しかし、近年の研究では「農民は国家の政策意図通りには動かなかった」側面が明らかにされてきました。戦時期の資料や文献に実際にあたることで、紋切り型の議論からは見えてこない等身大の人びとの姿が浮かび上がってきます。

朝鮮占領と日本―モノの動きから―

ito-imgS02敗戦によって日本は植民地・勢力圏を失い、アメリカを中心とする連合国軍の占領統治が開始されました。占領期の日本について、旧植民地との関係は敗戦を機に断絶したと思われるかもしれません。しかし米や肥料といったモノの動きからは、こうした想定とは異なる関係が見えてきます。植民地期の朝鮮は日本向けの米生産拠点として位置付けられるとともに、北部では化学肥料などの工業開発が進められました。日本敗戦後の朝鮮半島は北緯38度線を境に分割占領されますが、これは農業生産にとって穀倉地帯(アメリカ占領の南部)と化学肥料生産地帯(ソ連占領の北部)の分断を意味しました。南朝鮮の深刻な肥料不足が判明すると、日本から南朝鮮への化学肥料輸出が(肥料不足に悩む日本側の反対を押し切って)実施されました。こうしたモノの動きは、日本の植民地開発や米ソによる分割占領が、朝鮮半島はもちろんのこと占領下の日本に対しても影響を与え続けていたことを物語っています。

歴史研究は「役に立つ」のか―前提を問い直す―

ito-imgS03以上、2つのトピックを取り上げましたが、こうした歴史研究は現代の農業・農村を考える上でどう役に立つのでしょうか。歴史研究は過去を明らかにすることで、現在自明とされている前提自体を問うことができる点を強調したいと思います。たとえば、昨今マスコミでも大きく取り上げられた農協改革を例にとると、改革の対象となったJA全中という組織は、戦時統制でも占領軍の意向によるものでもなく、1950年代の「農業団体再編成問題」によって誕生しています。もしも今回の改革に戦時統制や(占領軍に押し付けられた)「戦後レジーム」からの脱却といった意義を求めようとするならば、見当違いといわざるをえないでしょう。農業史研究は、いま当たり前のように考えられている農業像や農村像を問い直すことで、現在についてもヒントを与えてくれる研究分野なのです。

「学科の魅力:教員が語る 食料・環境経済学のおもしろさ!」のトップへ戻る

pagetop